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減給の制裁の制限 (2018年6月号より抜粋)

規律違反に対して減給制裁を科したいが賃金の1割カット可能か

 

Q 従業員が重大な規律違反を犯したので、処分を検討しています。初回ということで、減給制裁にとどめようという意見が大勢を占めますが、「ペナルティーは高額とすべき」と主張する人がいます。労働基準法の条文をみると、「平均賃金の半額」のほかに「賃金総額の10分の1」という基準が示されています。後者を選べば金額が増えますが、両者はどのように使い分けるのでしょうか。

 

A 複数事案でないと1割を適用できない

 

従業員に対する懲戒処分としては、けん責、減給、出勤停止、解雇などが考えられます。

 

懲戒の種類や程度は就業規則の相対的必要記載事項ですから(労基法第89条9号)、懲戒権を発動したいのであれば、就業規則をキチンと整備しておく必要があります。

 

各種の懲戒処分のうち、減給制裁に限っては、労基法に明文の規定が存在します(第91条)。

 

同条では、減給は「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と規定しています。お尋ねにあるように、「①平均賃金の半額」と「②賃金総額の10分の1」という2種類の上限が設定されています。解釈例規では、両者の関係を次のように説明しています(昭23・9・20基収第1789号)。

 

  • ①については、「1回の事案に対しては減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内でならない」という趣旨である
  • ②については、「1賃金支払期に発生した数事案に対する減給額が賃金総額の10分の1を超えてはならない」という趣旨である

 

お尋ねにある規律違反が1回とカウント(たとえば、1回のミスの報告を怠る)される性質のものであれば、①の基準が適用されます。

 

重大ミスで、業務に与える影響が大きかったとしても、「平均賃金の半額」を超える減給は法違反です。たとえば、1日分の半額カットを複数回繰り返すといった対応は認められません。

 

これに対して、規律違反が数事案(たとえば、数回のミスについて報告義務を怠る)に及ぶときは、②の基準が併用されます。

 

仮に6個の事案があったとすれば「平均賃金の半額×6回=平均賃金3日分」のカットが可能(①の基準による)ですが、その総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えることができない(②の基準による)という意味です。

 

処分を受けた月に欠勤等が多くて、月給が平均賃金の30日分未満(たとえば、25日分)であるときは、その「10分の1」は平均賃金3日分に満たないことになります。この場合、当月に関しては2.5日分のカットが限度です。ただし、翌月の給与から不足分(0.5日分)を追加でカットすることは可能と解されています。

 

事案が1回で「平均賃金の半分ではペナルティーが軽すぎる」というのであれば、他の懲戒処分(出勤停止等)に代えることも検討する必要があるでしょう。