判例 会社合併後に異動命令 (2018年6月号より抜粋)
職種限定の約束あった 妥協点を探る努力をしていない
本裁判は、吸収合併で所属部門が廃止され、配転を命じられた従業員が提起したものです。入社当初、職種限定合意があったとして配転無効を主張しましたが、第1審では敗訴していました。第2審では、可能な限り前職に近い職種に移行できるよう誠実な対応をすべきと述べ、意に沿わない配転命令に正当性はないと判示しました。
J生命事件 名古屋高等裁判所(平29・3・30判決)
基本的には、職種限定者の配転の問題です。職種限定の合意があれば、会社は一方的な配転命令を出せないはずです。
しかし、本事件では、入社当時の会社(A社)がB社に吸収合併され、元の事業部門が消滅してしまったという事情があります。配転しないという選択肢は存在しないわけですが、だからといって「前会社との約束はすべて反故(ほご)にしてしまって構わない」といい切れるのでしょうか。
裁判所の判断も、第1審と第2審で割れました。
複雑な事案ですから、従業員本人(Cさん)と会社(B社)双方の主張をきちんと確認して、判断を下す必要があります。
CさんはA社(合併前の会社)のSP事業部に「営業社員を育成するリーダー職(SPL)」として特別採用されました。処遇については、最初の2年間は営業活動の有無等にかかわらず、固定給が保証されていました。同事業部の勧誘資料では、「意に沿わない転勤がないことを保障」していると解される記載もありました。
一方、会社の就業規則上には、「業務上の都合により、配置転換を命じ得る」という規定も存在しました。
しかし、前述のとおり、吸収合併でSP事業部が廃止されています。新会社(B社)は、Cさんにチーフトレーナー、営業所長等の4種の選択肢を示しましたが、合意に達しません。結局、最も条件の悪い営業職に配転することを決定しました。Cさんは、その後、営業社員としての職務懈怠(しょくむけたい)を理由に解雇されています。
第1審(名古屋地裁)は、就業規則上の規定を重視し、会社側の主張に軍配を上げました。
しかし、第2審では、「A社との契約では、入社後2年間について、直接的な営業的な活動を行うことは義務的な業務とされていなかった(職種限定合意が存在)」と認定しました。
そのうえで、「B会社は、可能な限り従前の業務と同等かそれに近い職種や職場に移動できるように、丁寧で誠実な対応をする信義則上の義務を負う」「4つの選択肢のうちの一部の労働条件を変容させるなど、柔軟かつきめ細かな対応をすることは、その企業規模からして十分可能だった」と述べ、配転命令(および職務懈怠を理由とする解雇)は無効と断じました。
B社の対応をみると、「吸収合併された従業員」に対して、「ある程度の不利益の甘受は仕方がない」といった強圧的な姿勢があったようです。それが、逆転敗訴の原因になったといえます。