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判例 リハビリ出勤に賃金を支払うか (2018年7月号より抜粋)

復職可能か判断する期間 労務提供とは認められない

 

精神不調者の職場復帰を円滑に進めるため、リハビリ出勤制度を設ける企業も少なくありません。本事件は、6ヵ月のテスト出勤期間に対する賃金支払を求めた事案です。裁判所は、「復職の判断材料とする趣旨であり、成果や責任は求められていない」ため、労働契約上の労務提供に当たらない(賃金の支払義務なし)と判示しました。

 

N社事件 名古屋地方裁判所(平29・3・28判決)


 

身体のケガや病気の場合、復職の可否は比較的容易に判断できます。しかし、メンタル不調者の場合、「労務可能」の診断書に基づき職場復帰させても、短時日で休職状態に逆戻りするパターンが頻発しています。

 

このため、段階的に職場に慣れさせる目的で、リハビリ出勤等の制度を設ける企業が増えています。

 

厚生労働省は、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平21・3・23基発0323001号)を策定し、円滑な職場復帰に向けた手順を示しています。

 

職場復帰支援プランの作成が中核となりますが、その際、「試し出勤制度(リハビリ出勤制度)がある場合はその利用の検討」を推奨しています。試し出勤制度の例として、「模擬出勤」「通勤訓練」「試し出勤」が挙げられています。

 

本事件は放送局A社が舞台ですが、うつ病で休職したBさんは、6ヵ月のテスト出勤を開始しました。しかし、遅刻早退によりテストは中止となり、その後、休職期間満了で解雇となりました。

 

Bさんは、テスト中止や解雇の違法性等を争って裁判を提起しましたが、テスト期間中の賃金支払も要求しています。本欄では、この賃金支払義務の有無に絞って判旨をご紹介します。

 

A社のテスト出勤制度はリハビリの一環として設けられたもので、「テスト出勤中および出退局途中は業務・通勤ではなく、労災法の対象外なので、治療を支援とする目的で交通費相当額が支給」されていました。

 

期間は6ヵ月で、前半は徐々に時間を長くしていき、後半はフルタイム勤務を基本とするというプログラムになっています。

 

判決文では、制度の性格について「テスト出勤は法的義務ではなく、具体的な制度内容はA社の裁量にゆだねられる」「テスト出勤の目的がリハビリにある以上、段階的に出局時間を長くし、作業負荷を通常勤務に近づけていること自体は合理的」「作業内容は軽度で、職員・管理職・産業医の三者で決定・変更するものであり、作業の成果や責任等は求められていない」と評価しました。

 

結論としては、「出局の状況が復職の判断材料とされるからといって、労働契約上の労務の提供を義務付け、または余儀なくするものとはいえない」と判示しました。

 

つまり、賃金の支払義務は生じないということです。

 

労働者側の全面敗訴ですが、リハビリ出勤制度の果たす有用性を考えると、きわめて妥当な結論といえるでしょう。