判例 態度不良の育休取得者の解雇無効 (2018年8月号より抜粋)
均等・育休法違反と認定 真正な理由は妊娠にあり
均等法では、産後1年以内等の女性に対する解雇は、原則として無効と定めています。本事件で、会社側は「妊娠とは関係なく、本人の勤務態度等に問題かある」という理由で、労働局の調停を拒否、解雇を強行しました。しかし、裁判所は、「妊娠等に近接しており、合理的な理由もなく」処分無効という判断を下しています。
S社事件 東京地方裁判所(平29・7・3判決)
まず、関連法令を確認します。
- 均等法第9条3項
事業主は、妊娠・出産等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。 - 同条4項
妊娠中の女性・産後1年を経過しない女性に対する解雇は、無効とする(ただし、出産・妊娠等を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない)。 - 育介休業法10条
事業主は、育児休業を理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
妊婦・子育て中の女性に対する保護法規は、周到に整備されているようにみえます。しかし、均等法9条4項の「ただし書き」にあるように、事業主が「解雇は妊娠・出産等と関係ない」と主張する余地は残されています。
本事件で、女性(Aさん)は2回の育児休業を取得しました。2回目の休業では、出産から半年後に復職を申し出ましたが、会社は「転籍・異動(給与は大幅低下)という選択肢しかない」と説明し、退職を勧奨しました。
自宅待機状態のAさんは、現職相当職への復帰を求め、労働局雇用均等室に調停を申請しました。
しかし、会社は調停案の受諾を拒否し、解雇するという強硬策を選択しました。このため、Aさんが裁判を提起したものです。
会社側は、解雇の理由として、「Aさんがいない職場があまりにも居心地がよく、復帰した場合にはその負担・落差に耐えられず、組織や業務に支障が生じるため」と主張しました。つまり、解雇は直接的に出産・育休取得とは関係ないというわけです。
実際、会社側の弁論によれば、「目標設定文書の提出が遅れ、督促を受けたが、優先順位が低いなどと述べ、一部白紙の書類を提出」「出退勤時に挨拶もしないなど著しい協調不良」といった勤務態度だったようです。
しかし、裁判所は、一問題行動があっても、同僚の生命・身体を危険にさらすおそれがあればともかく、そうでない限り、復職して必要な指導を受け、改善の機会を与えられることは育休取得者の当然の権利である」「解雇は妊娠等に近接して行われており、会社は合理的な理由がなく、社会通念上相当でないことを当然認識するべきであった」と述べ、解雇無効(慰謝料50万円)と判示しました。
事業主としては、妊産婦の勤務態度等に問題があっても、裁判の場で「出産等と関係なく、解雇は当然の処分である」ことを証明するのは、並大抵ではないと覚悟する必要があるでしょう。