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判例 単純作業への配転はパワハラ (2018年9月号より抜粋)

ミス多い院卒者を配転 会社に賠償支払いを命じる

 

本事件は、パワハラ認定の難しさを浮き彫りにするものです。大学院卒の新入社員は、業務ミスが多かったため、上司の冷遇を受け、単純作業中心の部署への異動を命じられました。一審は不法行為と目すべき行為はなかったと判示しましたが、高裁は退職に至る経緯を踏まえたうえで、精神的苦痛に対する慰謝料請求を認めました。

 

H開発事件 東京高等裁判所(平29・4・26判決)


 

平成30年3月に、厚生労働省は「職場のパワハラ防止検討会」の報告書を発表しました。その中で、パワハラに該当するか否か、具体的な例を示しています。

 

「上司が、管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせる」のはアウト(パワハラ該当)、「経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせる」のはセーフ(該当せず)というものです。

 

こういう風に整理すると話は簡単ですが、現実にはもっと微妙なケースが多々あると考えられます。

 

本事件は、入社3年目の正社員(Aさん)が、単純作業中心のランドリー班(クリーニング機械の操作、洗濯物の運搬等の業務)へ異動させられたものです。大学院で心理学を専攻し、総務関連の仕事を希望していた人材に対して、ふさわしい配属先でないのは明らかです。

 

この異例ともいえる人事発令には、当然、その背景となる事情があります。Aさんは、内向的な性格だったうえに、業務上のケアレスミスも多く見受けられました。

 

上司は、自販機の在庫集計作業(販売部所管)など、本人希望(総務関連)とは異なる作業を担当させたうえ、本人からの業務改善提案も取り上げようとしませんでした。面談の際にも、「Aさんのやっている事は仕事ではなく、考えなくてもできる作業だ」等の配慮を欠く発言を繰り返していました。

 

結局、業務を習得する十分な機会を与えられないまま、「必要とされるレベルに達していない」として、退職勧奨とも受け取れる異動発令を受けるに至ったわけです。

 

Aさんは、会社の一連の対応が不法行為であるとして慰謝料等を求める裁判を提起しました。しかし、一審(さいたま地裁)は、「意思疎通の不十分から生じた誤解によるもので、パワハラ等と目すべき行為はなかった」という判断を下しています(請求棄却)。

 

これに対し、二審(高裁)では、Aさんの主張を一部認容し、慰謝料の請求を命じました。

 

異動命令に関しては「新卒社員への対応として配慮に欠けるものの、業務量増加等の事情から違法無効とまではいえない」とする一方で、「上司の言動並びに本件異動を一体として考えれば、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を課すものであり、不法行為に該当する」と結論付けました。

 

グレーな言動・行為であっても、それが積み重なれば総合的判断からパワハラ等と認定されるケースもあり得るという点で、企業担当者(とくに上司)にとって教訓となる判例といえます。