労基法の休業補償(2018年12月号より抜粋)
パートから転換した従業員がケガをしたが正社員の賃金で補償するか
Q 働き方改革では、「同一労働同一賃金」の理念がうたわれています。当社では、思い切って優秀なパートの正社員転換を進めていますが、第1号の対象者が、転換後まもなく転倒して負傷してしまいました。2日分の休業補償をする際、「正社員転換後の賃金水準」で計算するのが正しいのでしょうか。
A 両者の期間を通算する
現行(改正前)のパート労働法でも、鶴第8条で「均衡待遇の原則」を示しています。働き方改革関連法では、同法の名称を「パート・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)」に改めたうえで、パート・有期雇用労働者の双方を対象として均衡・均等ルールを再編しました。
改正法の施行は平成32年4月1日(中小は1年の適用猶予)です。しかし、企業の現場では、前倒しでパート等の待遇を改善する動きも進んでいます。
均衡ルールの詳細については、平成28年12月に公表された「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」をべ一スとして、新しい指針が示される予定です。現在、厚生労働省の労働政策審議会で、作業が急ピッチで行われています。
さて、貴社ではパートの正社員転換を実施中とのお話ですが、業務内容・勤務時間の見直し等により、相当程度、賃金水準もアップしたはずです。
従業員が業務上の事故でケガをした場合、最初の3日間は使用者が休業補償を支払い、4日目(待期期間経過後)から労災保険の休業補償給付を請求します。
休業補償は、1日当たり平均賃金の60%相当額です(労基法第76条)。休業の初日は、所定労働時間の途中で事故が起きたとします。このときは、「平均賃金と当該労働に対して支払われる賃金との差額の60%相当額」を休業補償とします(労基則第38条)。
平均賃金は、算定事由の発生した日以前3ヵ月の賃金総額をその期間の総日数で除して算出するのが原則です(労基法第12条1項)。ただし、賃金締切日があるときは、直前の賃金締切日から起算します(同条2項)。
事務手続きの観点からは、賃金締切日をもって、パートから正社員への転換を発令するのが簡便です。たとえば、正社員になって2カ月目の途中でケガをしたと仮定しましょう。算定対象の3ヵ月間の内訳は、パート期間2ヵ月と正社員期間1ヵ月になります。これでは、正社員になった後の賃金水準を反映しているとはいえない気もします。
しかし、定年後に嘱託社員に切り替わったケースですが、「勤務実態に即し、形式的には別個の契約が存在しているが、実質的に1つの継続した労働関係であると考えられるので、事由発生以前3ヵ月を算定期間とする」という解釈例規があります(昭45・1・22基発4464号)。法的な解釈としては、両者の期間を混合して平均賃金を算定することになると考えられます。