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判例 嘱託再雇用者の賃下げを容認 (2018年12月号より抜粋)

不合理な格差に当たらず 労契法20条で注目の判断

 

本事件は、「判例の殿堂入り」間違いなしの注目ケースです。正社員が再雇用された後は、一般に賃金が大幅に下がります。この日本特有の「慣行」が、労契法で禁止する不合理な労働条件に該当するか否かが争われました。最高裁がどのような判断を下したか、判決文を播いてみましょう。

 

N運輸事件 最高裁判所(平30・6・1判決)


 

日本企業の大多数は、60歳定年制を定めています。しかし、60歳で完全リタイアする従業員は、むしろ少数派です。

 

高年法では、「希望者全員65歳まで雇用確保」(経過措置付き)を義務付けています。企業側の対応策は、「賃金を引き下げたうえでの再雇用」が主流です。

 

しかし、定年と同時に、職務負担が目に見える形で軽減されるとは限りません。従業員サイドでは、「雇用継続の恩恵は認めるけれど、賃金の減額が大きすぎる」といった不満が渦巻いていました。

 

そうした状況下、平成24年に労契法が改正され、新たに「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」をうたう条文が追加されました(第20条、平成25年4月施行)。この労契法第20条に照らして考えると、定年後の処遇変更は「正社員(無期)と嘱託社員(有期)間の格差問題」として捉え直すことができます。

 

本事件は、運輸会社のドライバーが提起したものです。ドライバーは、定年の前と後で、職務内容に差異を設けるのが難しい職種といえます。

 

労契法第20条では、「①職務の内容」「②人材活用の仕組み(転勤・配置転換等)」「③その他の事情」を考慮して、労働条件の差異が不合理であるか否かを検討します。第1審(地裁)では、「①職務の内容」「②人材活用の仕組み」が同一なので、賃金格差は違法という判決が出されました。

 

しかし、その後、2審(高裁)と最高裁は、定年後の賃下げを容認する判決を下しています。本欄では、最高裁の判断枠組みをみていきます。

 

判決文では、「再雇用者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定要件を満たせば老齢厚生年金の受給も予定されて」いると指摘しました。そのうえで、これは「③その他の事情」に該当し、①②が同じであっても、賃金格差を設ける合理的な理由になるという判断を示しました。

 

併せて、「不合理性は、原則として個々の賃金項目ごとに判断するが、賃金項目の有無が他の賃金項目も踏まえて決定されている場合には、かかる事情も「③その他の事情』に該当する」として、能率給・賞与等の不支給も労契法第20条に抵触しないと述べています。

 

従業員側の「不合理な労働条件(格差)」という主張は、精勤手当等の一部を除いて、ことごとく退けられた形です。この最高裁の判断は、「同一労働同一賃金」のルール形成にも大きな影響力を及ぼすと考えられます。