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労基法上の労働時間(2019年1月号より抜粋)

午前に健診に行った従業員が残業した場合に時間外の支払い義務は?

 

Q 当社では、定期健康診断を所定労働日に実施しています。朝一番で指定の医療機関に行き、健診が終わった後に出社するという段取りで、賃金カットは行っていません。先日、健診を受けた従業員が、2時間ほど居残りで残業をしました。本人から時間外の申請がありましたが、どのように取り扱うべきでしょうか。

 

A 対象時間分は割増不要

 

最初に、健診に要した時間の取扱いを確認しましょう。行政解釈では、一般の健診と危険有害業務の特殊健診に分けて、考え方を示しています(昭47・9・18基発第602号)。

 

一般健診(雇入れ時健診、定期健診等)に関しては、「受診のために要した時間(の賃金)は、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものである」としています。ただし、「事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その時間の賃金を支払うことが望ましい」と付記されています。

 

一方、特殊健診等については、「事業の遂行に絡んで当然実施されなければならない性質のものであり、所定労働時間内に行われるのを原則とし、時間外に行われた場合には割増賃金を支払わなければならない」と解されています。

 

貴社では、定期健診実施時も、相当時間分の賃金カットをしないという対応を採っておられるようです。

 

たとえば、朝、健診のために医療機関に行き、始業時刻から2時間経過後に出勤したとします。通常なら、定時に退社し、6時間分の労務の提供しかないわけですが、8時間分の賃金が支払われます。

 

この方が、業務上の都合で終業時刻以後、2時間の残業に従事したとします。この場合の賃金計算はどうなるのでしょうか。

 

一番簡単なのは、2時間分の割増賃金を支払ってしまう方法で、これなら従業員側からも文句は出ません。しかし、必ずしもそうする必然性もありません。原則的な処理方法を確認しましょう。

 

健診時間に対する賃金支払は「義務ではない」のですから、8時間分の出勤として取り扱えばよいという意見も出てきそうです。しかし、それでは定時退社組の処遇とバランスが取れません。

 

従業員感情を考慮すると、この方だけを対象として健診時間分の賃金カットを実施するのは避けるべきでしょう。

 

つまり、10時間分の賃金を支払うことになりますが、「賃金の支払対象となる時間」と「労基法上の労働時間」は異なります。10時間分の賃金を支払う場合も、「労基法上の労働時間(実際に労務の提供があった時間)が8時間以内」であれば、割増賃金の支払義務は発生しません。また、8時間を超える2時間について、時間外・休日(36)協定上の時間外実績として取り扱う必要もない理屈です。

 

ただし、後からトラブルが発生しないように賃金台帳等で、2種類の時間の区別が明らかになるようにキチンと管理しておく必要がある点には留意が必要です。