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判例 会社に損害賠償の補填求める(2019年1月号より抜粋)

業務中発生した車両事故 不真正連帯で責任を認定

 

本事件は、自動車事故を起こし縦業員が、相手方に対して賠償金を全額支払った事案です。仕事中の事故ですから会社に対して一部負担を求めましたが、拒否されたため、訴訟を提起しました。裁判所は、従業員が自己の負担分を超えて支払った分については、「不真正連帯責任」により、会社が支払う義務を負うと判示しました。

 

Sフーズ事件 佐賀地方裁判所(平27・9・11判決)

 


農作物の加工・販売会社(A社)の従業員Bさんは、空港から野菜を運ぶ途中でしたが、駐車場で車をバックさせる際に事故を起こしました。後方にあった他社車両を損傷すると同時に、自分が運転していた車も破損しました。当面、運転者であるBさんが、損害賠償の当事者となり、被害車両の所有者に対して賠償金38万円余を支払いました。ぶつけた方の車に関しては、A社が修理代9万円余を負担しました。

 

このため、裁判は本訴と反訴に分かれます。本訴部分では、BさんがA社を相手取り、自分が支払った(立て替えた)賠償額の支払いを求めました。一方、反訴部分では、A社がBさんに対して、修理代を負担するよう主張しました。

 

A社としては、事故を起こしたのはBさんですから、「本人が相手方に賠償金を支払って、それで一件落着」という考えだったのでしょう。ところが、会社に求償してきた(本訴)ために、逆に修理代を要求する反訴を起こしたものです。本欄で紹介するのは、地裁の判決ですが、本事件については上告が棄却され、判決が確定しています。

 

判決文では、まずA社とBさんは「不真正連帯責任の関係にある」と述べています。

 

聞き慣れない法律用語ですが、「債務者間に密接な関係(連帯保証契約のようなもの)がないけれど、関係者全体に責任を負わせるのが妥当と解される」ような関係をいうようです。代表的な例として、被用者の不法行為による使用者の賠償責任(民法715条)と被用者自身の賠償責任(同709状)の関係が挙げられます。

 

会社が連帯して責任を負う理由として、判決文では「被用者・使用者間には雇用契約が存在しており、使用者は被用者の活動によって自己の活動領域を拡張しているという関係に立つ(いわゆる報償責任)から」と述べています。そのうえで、「Bさんの業務は事故発生の危険性を内包する長距離運転を予定するものであり、過失内容も自動車運転に伴って通常予想される範囲を超えるものでない」ため、A社とBさんの負担割合は7対3が相当と判示しました。

 

一方、反訴部分に関しては、BさんもA社所有の車の修理代のうち3割を支払うべきと結論づけました。

 

つまり、本訴・反訴ともに、従業員の責任部分は3割ということになります。業務上の通常レベルの事故(重大な過失のない事故)の場合、会社が過半以上の賠償責任を負う点は、労務管理上の「常識」として記憶しておくとよいでしょう。