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判例 パワハラ放置の管理責任は? (2019年2月号より抜粋)

環境調整義務に違反家族も配慮不足と指摘

 

精神不調者は、、ふとしたキッカケで自殺に至ります。しかし、そこに至る前に、会社・家族として「やれること」はたくさんあったはすです。本事件では、パワハラを放置していたS市に対して、安全配慮義務違反等による損害賠償を命じました。同時に、家族についても、7割の過失相殺という厳しい判断を下しています。

 

S市控訴事件 東京高等裁判所(平29・10・26判決)


 

亡くなられたAさんは、S市の職員です。

 

学校で業務主事として勤務していた当時から、精神不調(反復性心因性抑うつ精神病など)に悩んでいて、2回、90日間に及ぶ休職期間がありました。

 

服薬により症状は改善傾向にありましたが、異動により環境局で業務主任として勤務することになりました。ところが、隣の席の先輩Bさんが「白己主張が強く協調性に乏しい人物」(職場関係者の話)で、Aさんに対してパワハラ的行為(暴言、暴力)を繰り返します。

 

Aさんの使用していたパソコンの中には「パワハラ」と題するフォルダがあり、脇腹のあざの写真や警察署で相談した声の記録等が残されていたといいます。

 

Aさんは、上司に相談し、上司経由でセンター長にも話が伝わりましたが、抜本的な対策は取られませんでした。

 

精神状態が悪化し、医師から休職を勧められましたが、Aさんは「自宅にいてもすることがなく自殺することばかり考えてしまう」と診断書の撤回を求めます。休職をめぐって市側と本人と家族の間で「すったもんだ」があり、最終的には「診断書の日付を変えてほしい」という市側からの要請を受けた後、「もう嫌だ」と叫んで、自殺してしまいました。

 

父母がパワハラで訴え、1審・2審とも勝訴しています。ただし、父母も適切な対応を怠っていたとして、7割の過失相殺(1審は8割)という判断が下されています。

 

判決文では、市側に安全配慮義務・職場環境調整義務違反があったと述べています。

 

裁判所は、安全配慮義務について、安衛法第70条の2に基づく指針に言及しました。「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平27指針公示第6号)を踏まえると、事業者は「精神疾患により休職した職員の特性を十分理解したうえで、病気休業後の配慮、職場復帰の判断、職場復帰の支援・フォローアップを行う義務」があったと述べています。

 

会社としては、法律だけなく、関連指針等もキチンと理解した対応が求められるという厳しい指摘です。

 

職場環境調整義務に関しては、「パワハラの訴えがあったときは、加害者に対する指導、配置換え等を含む人事管理上の措置を講じる義務を負う」と判示しました。

 

本事件では、「診断書の日付変更」というささいなキッカケで、尊い人命が失われてしまいました。市と家族の双方が「迅速に対応を講じていれば」と悔やまれるばかりです。