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判例 期間途中の年俸半減は適法か (2019年3月号より抜粋)

会社は「同意得た」と主張 自由意思に基づかず無効

 

中途採用の入材が「期待にほど遠い」働きぶりという場合、会社側も大いに焦ります。本事件では、1年契約の途中で「年俸を半額にカットする」という非常手段が採られました。会社は本人同意を得たと主張しましたが、裁判所は「従業員が異議を唱えなかったのは、解雇回避のための苦肉の策」と認定し、賃金減額は無効と判示しています。

 

N社事件 東京裁判所(平30.2.28判決)


 
賃金は従業員にとって「死活問題」といってよいほど重要な労働条件ですから、その引下げは容易ではありません。

 

特に年俸制の場合、1年間に支払うべき金額があらかじめ約定されています。ですから、期間途中の年俸引下げに対し、裁判所は特に厳しい判断を下しています。

 

たとえば、就業規則変更による場合(シー工一アイ事件、東京地判平12・2・8)、降格による場合(新聞輸送事件、東京地判平22・10・29)など、いずれも年俸の減額は認められないと判断されています。

 

本事件で、会社は採用後わずか3ヵ月半後に年俸を半額(月額50万円を25万円にダウン)にすると本人に通告しました。営業社員として採用したものの、さっぱり成績が上がらないのに、業を煮やしての対応です。

 

会社側の説明によれば、本人は「社長に対して会社方針に従う旨のメールを送信し、次に部長に給与半減に応じる旨を伝え、その後、社長と面談した際にも減額に異議を述べなかった」ということです。形式的には、本入の同意を得たうえでの正当な措置のようにもみえます。

 

しかし、そのプロセスには大きな問題がありました。

 

判決文では、まず会社が置かれた立場について、「使用者は従業員の業績が上がらないことから当然に従業員を解雇したり、賃金を減額したりできるわけではなく、本人の自由な意思に基づく同意を得る以外に賃金減額を行うことができる法的根拠はなかった」と述べています。

 

それにもかかわらず、会社側は、「面談の中で、本人に対して解雇予告手当さえ支払えばすぐに解雇できるという不正確な情報を伝えたうえで、退職か賃金減額のいずれを選択するのかを同日中、もしくは遅くとも翌日までに決断するように迫る」という対応を取っていたのです。

 

このため、裁判所はr本人は、十分な熟慮期間も与えられない中で、最終的には、その場での退職を回避し、今後の業績向上により賃金が増額されることを期待しつつ、やむを得ず賃金減額を受け入れた」と認定し、「本件行為は本人の自由な意思に基づくものとはいえない」と判示しました。結論的には、賃金の減額は無効です。

 

即戦力が欲しい気持ちはよく分かりますが、能力の見極めもできないうちに、やみくもに高額の年俸支払いを約束するのは考えものです。今回の敗訴は、会社にとってr高い授業料」だったといえるでしょう。