定年間近の労災  
     

Q

私は仕事中高所から転倒し寝たきり状態(首から下がマヒして動かず、意識ははっきりしており会話等も問題なし)で入院中の会社員です。(事故発生日からもうすぐ1年経過)

リハビリは続けており、わずかですが、手に感覚を感じるようになってきているため、主治医は病状が固定しない状況と判断しており、傷病等級も確定しておりません。この状態がしばらく続くとしたうえで、今後の労災および年金の取扱いについてお教えいただけますか。

ちなみに、この私は約半年後に事故発生日から1年6ヶ月が経過し、更にその半年後には定年をむかえます。会社は、定年退職まで社員として在籍させる予定でおります。(在籍は約30年です)

事故発生後1年6ヶ月経った後の労災における取扱い(年金等)および厚生年金(障害厚生年金)の取扱いまた併給等についてお教え頂けますでしょうか。

 
   

A

業務災害に起因する障害に対しては、後遺障害の程度に応じて、労災保険及び社会保険より次の給付が受けられます。

1.労災保険
現在療養を続けて、これ以上は治療効果が期待できないときは「治癒」したと見なされますので、障害補償給付の請求を行うことになります。

(1)今後症状が固定して治癒と認定された場合は、障害の程度に応じて障害補償給付が支給されることになります。被災者は、体幹に高度の麻痺があることから、「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常時介護を要する者」と認定されれば、障害等級第1級になり、「障害補償年金」として当該障害の存する期間1年につき、給付基礎日額の313日分が支給されます。

(2)療養を開始してから1年6ヶ月経過した日において、傷病が治らず、かつ、傷病による障害の程度が傷病等級表に掲げる傷病等級に該当する時には、その状態が続く限り「傷病補償年金」が支給されます。
傷病補償年金の給付額は、傷病等級に応じて次の額が年金として支給されます。傷病補償年金が支給されることになった時は、休業補償給付は受給できません。

第1級 給付基礎日額の313日分
第2級 給付基礎日額の277日分
第3級 給付基礎日額の245日分

本件被災者は、療養開始後1年6ヶ月を経過した日において、治療効果が期待できるとして、なお療養を続けている状況にあれば、傷病の程度によって、上記いずれかの傷病補償年金に該当するのではないかと考えられます。
☆療養のため休業中に定年退職日が到来した場合には、その定められた期限で退職になります。


2.障害厚生年金・障害基礎年金
労災保険を受けていて、初診日から1年6ヶ月を経過した日またはその期間内に傷病が治った日における障害の程度が障害等級の1級・2級または3級に該当した時は、障害厚生年金が支給されます。
障害基礎年金は、障害の程度が1級・2級に該当する場合に支給されます。
本件被災者の障害の程度は、障害等級の1級(常時介護を必要とする)に該当すると考えられますので、障害厚生年金と障害基礎年金があわせて支給されます。

○障害厚生年金額は、
平均標準報酬月額×7.5×/1000×被保険者期間の月数×1.031×1.25となります。
なお、被扶養者配偶者がいる場合は、加給年金(231,400円)が加算されます。平均標準報酬月額および被保険者期間の月数は、本人の「年金手帳」と「委任状」を持って管轄の社会保険事務所で調べてもらってください。

○障害基礎年金の1級の年金額は、804,200円×1.25=1,005,300円です。

なお、18歳到達後の最初の3月31日までの間にある子、20歳未満の障害の状態にある子についての子の加算額があります。

障害厚生年金受給権者が、老齢厚生年金の受給権を取得した場合には、2つの年金の受給権を取得します。この場合、「1人1年金の原則」により、併給調整となり、どちらか1つの年金を選択することになります。被災者の場合、障害等級2級以上の障害厚生年金を選択するほうが老齢厚生年金よりも有利です。選択基準は、前述の通り障害厚生年金は1級・2級は障害基礎年金が同時に支給されるからです。

3.労災保険と社会保険の調整
労災保険から障害補償年金および傷病補償年金を受けられるとき、同一の事由で社会保険(厚生年金、国民年金)からも障害年金が支給されます。この場合には、労災保険の給付について、減額調整が行われます。労災保険の調整率は次表の通りです。

 

障害厚生年金

(障害等級3級)

障害厚生年金

障害基礎年金

(障害等級1・2級)

障害補償年金(労災) 0.83 0.73
傷病補償年金(労災) 0.86 0.73


4.総括
本件は、労災保険からは、治癒した場合は、障害補償年金、1年6ヶ月経過時点で傷病が治っていない場合には傷病補償年金のいずれかが支給されることになります。

社会保険からは、障害等級2級以上に該当する場合は障害厚生年金と障害基礎年金が併給されます。

労災保険と社会保険を同時に受けられる場合には、社会保険年金は全額支給され、労災年金は一定割合を減額調整して支給されることとなります。

 

 
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