判例 出向は包括的同意で可能 (2003年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

詳細な規程は必要。片道切符でも問題ない。

判例の流れとしては、関連会社への在籍出向に際し、社内の配転と同様に本人の個別的同意は要らないという見解が大勢となっています。本判決は、その判断枠組みに沿って、最高裁がダメを押したものです。片道切符の在籍出向でも、労働協約等が整備されていれば、包括的同意のみで出向を命令できると判示しました。

最高裁判所(平15・4・18判決)


民法第625条第1項は、「使用者は労務者の承諾あるにあらざればその権利を第三者に譲渡することを得ず」と定めています。「権利義務の一身専属性」と呼ばれていますが、労働者は自分の仕事を他人に代理させることはできない一方、会社も勝手に他の会社で働くよう命令できないというものです。

出向は、労働契約を結んでいる会社ではなく、別の会社で働く形を取ります。このため、以前は、民法の原則に従い、出向には本人の個別的同意が必要とみる説も有力でした。しかし、経済社会が複雑化し、複数の会社が陰に陽に結びつきを深め、ネットワークを構成するなか、出向は日常茶飯事という状況が生じました。

この社会情勢の変化を踏まえ、在籍出向については、入社時の「包括的同意」があれば、出向の都度、「個別の同意」は要らないという見解が主流になってきました。包括的同意とは、入社時に、出向規定も含めた就業規則、労働協約を承認したという意味です。

本事件では、親会社から関連会社への出向は慣例化し、訴えを起こした従業員は、個別的同意なしに3年の出向契約を3回延長され、事実上、本社への復帰は困難という状況になっていました。このため、同意なしで片道切符の在籍出向を命じるのは不当と訴え出たわけです。

在籍出向がいつでも包括的同意のみで有効になるわけではなく、具体的な出向規定もない状態で、関係の薄い会社にいきなり出向させるわけには行きません。この点について、判決文は「会社就業規則、労働協約には出向の規定があり、労働協約である社外勤務協定において、社外勤務の定義、出向期間、出向中の社員の地位、賃金、退職金、各種の出向手当、昇格・昇給等の査定その他処遇等に関して出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられている」と事実認定しました。この点が、判決結果に大きく影響している点は重要です。

さらに、「社外勤務協定は、業務委託に伴う長期化が予想される在籍出向があり得ることを前提として締結されているものである」という条件を考慮し、片道切符に近い長期出向も、転籍と同視することはできず、権利濫用とは認められないと判断しました。

このように、詳細な合意内容が明文化され、特定会社とひんぱんに出向の実績があり、労働条件の低下も僅少という場合には、社内的な配転と大差ないと考えられます。ただ、この判決の結論部分だけみて、出向命令は何でも有効と早合点すると、痛い目にあうおそれもあります。

 

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