不始末で自宅待機の社員の賃金 (2004年2月号より抜粋)  
     
 

不始末で自宅待機中の社員に期間中の賃金を払わないと違法になりますか

 

Q

顧客から電話で、「貴社の担当者Aさんは、今後、わが社に出入り禁止として欲しい」ときつい申し入れがありました。当面、本人には自宅待機を命じ、事実関係を調査する方針ですが、社会常識的にいえば、待機中、賃金を払う義務はないように思います。法律的に、何か問題があるでしょうか。

 

 
 

A

調査の段階なら支払う

本人の過失で自宅待機となったのだから、いわば自業自得、賃金を払わないのが当然だという論理だと思います。しかし、ことばを慎重に使い分けないと、不用意に法違反を犯してしまう危険があります。

本人の過失の内容が明らかになり、就業規則の懲戒規定に照らし、出勤停止が相当という結論に達したとします。この場合、出勤停止期間中、賃金を支払わないのは、ノーワーク・ノーペイの原則に基づき、何ら問題はありません。減給の制裁と異なり、労務の受け取りそのものを拒否するのですから、「減給額が1日の平均賃金の半額以下」等の制限もかかりません。

過失の内容と出勤停止の長さを比較考量し、量刑が適切かどうか、その点だけが問題となります。しかし、お尋ねのケースでは、まだ「事実調査の段階」にあるに過ぎません。場合によっては、顧客の思い違いが原因かもしれません。取り合えず、顧客の顔を立て、自宅待機を命じ、追って正式に懲戒処分を課すという方針なのではないでしょうか。

だとすれば、労務の提供がないから、ノーワーク・ノーペイで賃金を払わなくてよいという理屈にはなりません。

会社が、自己の経営上の判断から、「自宅に待機していなさい」と命じた場合、自宅で待機していることが、業務命令に基づく労務提供に該当します。

例外的に、本人が社内で、証拠隠滅やさらなる不正を働くおそれがある場合に、出勤を差し止めることは、会社の正当な権利と認められます。そうでない限り、本人に通常どおり勤務させるか、自宅待機として賃金を支払うか、どちらかにすべきでしょう。

「自宅待機ではなく、就労の拒否という形を取ったらどうか」、そういう疑問を抱く事業主の方もおられると思います。労基法上、事業主は平均賃金の6割を支払えば、労務の受領を拒むことができます。一般的には、労働者には、「休業手当はいらない。それより、ちゃんと職場で働かせて欲しい」と要求する権利はないと解されています。継続して仕事をしないと技能が劣化するなど特段の事情がない限り、就労請求権は認められません。

それなら、調査期間中、休業手当を払って休ませたらどうか、というアイデアです。この場合、「調査上の必要があれば、いっでも出社できるように待機しておくこと」などと、命令はできません。なおかつ、民法第536条第2項に基づき、残りの40%についても、労働者は請求可能です。

ですから、顧客に勘違い等があった等、休業命令に正当性がなければ、裁判等に発展するおそれもあります。

 

 
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