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判例 希望退職者の退職金の算定 (2004年7月号より抜粋) | |
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自由意思による退職と認定 会社は円満退職と考えていたのに、後から従業員から「解雇された」とクレームがっくのは、珍しい話ではありません。本事件では、賃金遅配が続くなか、「退職希望者がいれば、所定の退職金を払う」という会社説明に応じ、9人が辞意を表明しました。裁判所は、「会社都合の高い割増率の退職金を払え」という従業員側の請求を、「理由がない」と斥けています。 N工業事件 東京地方裁判所(平15・11・18判決) 退職理由をめぐってトラブルが起こるのは、経営者側が「すべてを話さなくても、従業員は会社の苦境を察してくれるだろう」と考え、舌足らずな説明をするのが原因です。従業員の心の変化を辿ると、その場では「不本意ながら退職に同意した」はずなのに、時が経つうちに「無理やりクビにされた」という怒りが募ってくるわけです。 本事件で、会社は業績が極度に落ち込み、給与の遅配、賞与の不支給等が常態化していました。このため、従業員に対し、会社の現状を説明する会議開催や文書配布が何度も行われました。 そのなかで、「会社が営業できない場合には、退職金の支払い自体ができなくなる」「今、退職するのなら、退職金規定に基づく金額を全額払う」という趣旨の発言・説明が繰り返されました。 これに応じ、原告を含む9人が退職を申し出ました。会社としては、相当数の人員削減に成功し、ひとまず胸をなでおろしたことでしょう。 ところが、後日、退職金の算定額に関する紛争が勃発しました。会社は、「退職金規定に基づく退職金」とは「自己都合退職の係数に基づく退職金」を意味すると考えていました。 これに対し、従業員側は、「当分の間の給与の支払いが確実でなく、特に3ヵ月も遅配になると聞かされた以上、退職する以外の選択肢はなく、実質的には解雇に他ならない」と主張しました。したがって、会社都合の高い割増係数に基づく退職金が支払われるべきだという結論になります。 裁判所は、「形式上は合意解約であっても、会社都合による退職であるとの評価も可能な場合も存する」点は認めました。会社が、「雇用保険の離職票には会社都合による退職と記載した」点も、従業員側に有利な証拠といえます。 しかし、判決では、会社の意図は、「原告に対する個別的な退職勧奨と異なり、従業員全員に対し、会社の客観的な経営状況から、退職する意思のあるものの有無を確かめ、退職する者に一定の便宜を供与するというもの」に過ぎないから、「原告らが退職したのは、会社の将来性、会社に残留した場合の労働条件等を比較検討した上での自由意思によったものと評価せざるを得ない」と判断しました。 結果的には、会社側の主張が認められ、割増の退職金支払いを免れることができました。本事件の教訓は、「退職時に『あ・うん』の呼吸は通用しない」「口頭でなく、文書で合意内容を確認しておく」という点でしょう。
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