判例 職務発明の報償金 (2004年11月号より抜粋)  
   

 

 
 

利益上がれば還元を 定額補償金では不十分

従業員の発明対価をめぐっては、高額の支払いを命じる判決が続いています。本件は光ディスク再生装置等の発明に対する支払い額が争われたものです。第一審(東京地裁)で約3,500万円と認定された対価相当額が、第二審(東京高裁)では1億6,000万円余に膨れ上がっています。ちなみに、会社が補償金として支払っていた額は、238万円でした。

東京高等裁判所(平16・1・29判決)


本判決の翌日(平成16年1月30日)、東京地方裁判所は日亜化学工業事件の判決を言い渡しましたが、青色発光ダイオードの対価は200億円と認定されました。この度肝を抜くような事件は、日刊紙・テレビ等でも大きく取り上げられたので、ご記憶の方が多いでしょう。これは「20世紀中はムリ」という予測を覆す大発明だったので、「別格扱い」とみてよいでしょう。

しかし、いわゆる「職務発明」については、もっと地味ながら従業員の主張が大幅に認められる判決が続いています。本判決は、研究員として長年勤務した従業員が、3つの発明の「相当の対価」を求めて提起したものです。第一審では、その金額を「会社が補償金として支払った238万円」を除き、約3,500万円と判定しましたが、従業員は「安すぎる」、会社は「高すぎる」と主張して、ともに控訴していました。第二審の東京高裁は、その金額(補償金を除いた不足分)を1億6,000万円余に引き上げました。

そもそも日本では、従業員の発明に対して支払う金額が欧米に比べ少なすぎるようです。本事件の238万円は、むしろ恵まれている方です。就業規則等に基づき数万円程度の報償金を支払って終わりというケースが大部分です。

会社は、規則(労働契約)に基づき補償金を支払ったから、それで義務を果たしたと主張します。

しかし、特許法第35条第3項では、「従業員等は、契約、勤務規則その他の定により、職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ、又は使用者等のため専用実施権を設定したときは、相当の対価の支払いを受ける権利を有する」、第4項では「対価の額は使用者等が受けるべき利益の額、使用者等が貢献した程度を考慮して定める」と規定しています。

この点につき、本判決文では、「特許を受ける権利等の内容や価値が具体化する前に、早期の段階で対価の額を確定的なものとして定めることは許容されない」「勤務規則等に定められた対価は、これを直ちに特許法第35条第3、4項所定の対価の全部に当たるとみることはできない」と述べました。

ですから、「使用者等が支払うべき対価に関する条項がある場合においても、特許法に従って定められる対価の額に満たないときは、その不足する額の支払いを求めることができる」という結論になります。職務発明が大化けして、会社に相当な利益をもたらしたときは、当然、その一部を従業員に還元しないといけないのです。

 

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