判例 労組役員への異動命令は有効 (2005年3月号より抜粋)  
   

 

 
 

人選基準に合理性ある 交渉態様も正当と認定

労働組合の力が強いと、人事異動命令を発するたびに、神経をすり減らします。組合側には、会社の不当な人事発令を跳ね返すことで、自己の存在意義が増すという意識があります。しかし、組合員、特にその役員の配転が常に免除されるというのも、逆に不公平です。本事件で、裁判所は、組合役員多数を含む異動命令について、権利の濫用はなかったと判示しました。

京都地方裁判所(平16・7・8判決)


会社は、自己の裁量に基づき、人事異動の対象者を選定し、配転命令を出します。しかし、その実施に際し、組合と協議するという協定を結んでいるケースも少なくありません。本件では、異動に関し、「問題が生じれば、事前に組合と協議し、円満に解決する」という約束が交わされていました。

会社は輸送部門の成績低迷に伴い、ドライバー9人の削減が必要となり、職種転換により対処する方針を決定しました。対象者は基本給の高い順に選定しましたが、その中には組合役員が半数以上含まれていました。当然、会社と組合の協議はもつれ、結局、合意に至らないまま職種転換が実施されました。この措置に対し、組合側が訴えを起こしたのが本事案です。

裁判所は、異動に関する最高裁判例(Tペイント事件、昭和61・7・14判決)を引いて、異動命令の合理性を検討しました。最高裁判所は、「業務上の必要性が存する場合でも、配置転換命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときは、権利の濫用に当たる」と述べていました。

本件では、業務上の必要性が高いことは明らかです。住居の移転を伴わない職種転換なので、不利益の程度も大きくありません。問題は、命令に「不当な動機・目的があるかどうか」、つまり、組合の弱体化を図る意図があるかどうかです。

判決文では、労使が合意に達しなかった点について、「ミーティングにおいて人事異動の説明をし、更に4回にわたり団体交渉を行い、人事異動に至る経緯やその内容を説明した書面を交付するとともに、経営状況が分かる資料の交付もしたうえで、組合と議論をした」という状況を踏まえ、十分に協議を尽くしていると判示しました。

対象者の半数が組合役員だった点に関しても、「組合には訴えを起こした社員の他にも31名の役員が存在し、組合活動を行っているものが多数存在していた」ため、「会社が組合ないし組合の活動を嫌悪して行ったものではない」という結論が下されています。

ちなみに、「基本給が高い者」という選定基準ですが、「組合の結成以後、勤務評定制度を廃止していたことから、従業員の貢献度等を評価する情報がなかった」という状況下では、合理性があると認められています。

組合の役員等が相手でも、人事の公平性を保つという観点から、正当な理由のある配転命令は恐れず発するべきです。

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