判例 能力不足による解雇やむなし (2005年8月号より抜粋)  
   

 

 
 

出向先の成績も劣悪 必要な配慮は尽くした

本社で成績不良の社員を、出向に出すケースもあります。当人が、心機一転、新しい職場で頑張ってくれれば、それがベスト。しかし、出向先も「使い物にならない」と契約解消を申し出た場合、とうなるのでしょうか。本事件で、出向元(本社)は能力不足を理由とする解雇という非常手段を取りましたが、裁判所は有効という判断を下しています。

Tテープ事件 東京地方裁判所(平16・9・25判決)


本事件では、出向以前から、問題の従業員をめぐって色々とトラブルが続いていました。会社としてはほとほと困り果てていたところ、本人は営業職を希望していたので、解決策として関連販売会社への出向が実施されたものです。

ところが、結果は最悪のパターンをたどりました。半年の粗利目標を60万円と設定したのに、3ヵ月の実績は3万円足らずにとどまっていました。しかも、再三の要請を受けたにも関わらず、朝礼や会議等にも出席しないという勤務ぶりです。その後も改善がみられないため、出向先会社は契約を解消したい旨、申し入れてきました。

本社では、「他に取る手段なし」と判断し、最終的に就業規則の「職務遂行能力を欠き、他の職務に転換できない」場合という規定を適用して解雇に踏み切りました。これは、企業としてやむを得ない措置のようにも思えます。

しかし、裁判所は、特に終身雇用の正社員を対象とする場合、能力不足による解雇には厳しい姿勢で臨む傾向があります。絶対的な能力不足が明らかで、指導・教育・配置転換など必要な配慮を尽くしても、なお改善の見込みがないようなケースでないと、なかなか処分は有効と判断されません。

本事件でも、解雇された従業員は裁判で徹底的に争う姿勢を示しました。まず、能力不足の点ですが、裁判所は「格別の経験のない新入社員であっても6ヵ月で60万円の粗利を計上しているにもかかわらず、当人は本社の営業で稼動していた際には、ユーザーへの飛び込み営業の経験まで有していながら、著しく低い成績しか上げ得なかったこと等を総合的に考慮し」、就業規則上の普通解雇事由に該当すると判断しました。

残る問題として、会社はさらに職務の転換等を実施し、雇用の継続を図る義務があるのか、この点を検討する必要があります。判決文では、「当人は、強く営業を希望し、自信を持っていたにもかかわらず、その成績は極めて劣悪なのであるから、さらに他の職に従事させるまでもなく」、能力の不足は明らかであると結論づけています。

ですから、一般に「出向先でも成績が上がらないから、もう解雇するほかない」、性急にそういう判断を下すのは危険です。本人の意に反する職務に転換させた場合など、解雇権濫用とみなされる可能性を否定できません。本事件では、結果的に出向の解約申入れを契機として解雇という処分が下されたわけですが、それに至るまで会社が慎重な対応を重ねた点を、むしろ学ぶべきでしょう。

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