判例 管理職の単純作業はいやがらせ配転か (2005年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

短運作業含んでも適法 管理職の訴えを却下

会社側が「うってつけ」と考え、配転を命じたが、本人に冷遇人事と受け取られるケースも少なくありません。本事件は、通信教育部門の担当を任された従業員が、「単純作業ばかりで、嫌がらせとしか思えない」と訴えた事案です。裁判所は、「管理職だからといって単純作業を担当しない」という決まりはなく、他の条件も総合的に考慮すると権利の濫用に当たらないと判断しました。

Tセメント事件 東京地方裁判所(平17・2・25判決)


適材適所の人員配置というと、抜擢・登用というイメージが強いのですが、その逆のパターンもあり得ます。特定ポストに空きができたけれど、活きのいい若手にとって魅力一杯の仕事ではなかったとします。そんなときに、管理職の肩書きはあるものの、成績はパッとしない中高齢者に白羽の矢が立つこともあります。

会社にとっては、これが最善の人材活用策なのですが、場合によっては、ターゲットとなった管理職のプライドを著しく傷付ける結果に成りかねません。賃金・処遇さえ維持すれば、それでいいという問題ではないのです。

本事件の発端は、会社の通信教育部門の担当者が、定年退職を迎えたことです。仕事の中身は、毎年11月に実施されるコンクリート技師、コンクリート主任技師の資格認定試験の受験指導関連業務でした。後任を選ぶに当たっては主任技師資格保持者が望ましく、会社は「ISOグループに所属していたものの、ISOの案件を担当していなかった」管理職Aが適任と判断しました。

しかし、Aは「アルバイトでもできるような単純作業を担当する部署に配転されたのは、退職を促すための嫌がらせだ」と主張して、訴えを起こしました。確かに、配転後すぐの仕事は、封筒の発送や回答の開封作業、受付印の押捺、○×問題の採点など、単純な「事務的作業」が中心だったのは事実です。Aは、「これは管理職である自分が担当すべき職務ではない」と憤っています。

これに対し、裁判所は「事務的作業を担当する期間は5月から11月まで半年間に過ぎず、生コン学校の補助にも当たっていて、教育事業部の応援も実施されているのであるから、事務的作業のみを担当するために配転されたとはいえない」と事実認定しました。

さらに、「通信教育の事業を把握するため、配転後の最初の半年間、事務的作業に当たらせることを不合理ということはできないし、管理職は単純作業を担当しないとされていたということはできない」とも述べています。結果的に、「嫌がらせ配転」という主張は全面的に斥けられました。

一般に転勤を命じる根拠として、「業務上の必要性は、余人をもって替え難いという高度のものであることを要せず、適正配置等、企業の合理的運営に寄与する点があれば足りる」と解されています。

会社は持ち駒の活用に関し広い裁量権を有しますが、意に染まない配転を命じるときは、無用な誤解を避けるため、業務範囲・権限等をきちんと説明すべきでしょう。


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