残業時間の端数処理 (2005年11月号より抜粋)  
     
 

毎回の残業に端数が出た場合に四捨五入処理をするのは違法か?

 

Q

大手ファースト・フード・チェーンで、時間外算定の端数処理をめぐってトラブルが生じたと聞きます。当社では、事務簡便化のため、時間外について15分未満切捨て、15分以上切上げというルールで処理を行っています。四捨五入方式ですから従業員が一方的に不利になるわけではありません。それでも、法的に問題があるのでしょうか。

 

 
 

A

1ヶ月の合計以外はダメ

労基法第24条第1項は、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定めています。このうち、「全額」にかかる部分を「全額払いの原則」といいます。

ただし、この原則を貫徹すると、事務処理上煩雑なケースもあるので、通達(昭63・3・14基発第150号)では、一部例外を認めています。時間外の端数については、「1カ月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること」は違反として取り扱われません。

ですから、1カ月単位で15分未満を切り捨て、15分以上30分未満を30分に切り上げることも、法に反しません。

しかし、通達の趣旨は、この条件に当てはまる場合にのみ、例外扱いするというものです。ですから、その反対解釈として、1日単位の四捨五入処理等は許されません。原則的には、「法定労働時間を超える労働は、厳密にはたとえ1分でも割増賃金の支払いを要する」(菅野和夫「労働法」)ので、1分単位の記録が必要です。

端数を常に切り上げるのは、法を上回る処理ですから、もちろん問題ありません。しかし、四捨五入処理は、「従業員が一方的に不利になるわけではない」といっても、言い訳になりません。

現在、賃金計算はコンピュータによるケースが大半ですから、そもそも1ヵ月単位の四捨五入処理も、その存在意義が薄れてきています。1日単位の切上げは、事業主にとって負担が大ですから、1分単位の処理を心がけるべきです。

ただし、ベルトコンベアによる流れ作業ならともかく、事務所のデスクワークで、1分の残業等をうんぬんするのは現実的ではありません。この場合、会社は「残業は15分単位を目安とするよう」従業員に協力を求めることはできます。

注意が必要なのは、「15分未満は切捨て、15分以上30分未満は切り上げて自己申告してくれ」という意味ではないことです。15分単位で仕事に「切りをつける」よう要請するだけで、現実に15分未満の端数が出たら、それは記録しないと違法になります。「15分未満の残業申請は認めない」と拒否することはできません。

このほか、たとえば30分未満の残業予定なら、翌日回しにするよう指示することは可能です。ただし、この場合も、たとえば帰り際に急な電話がかかってきて、数分、居残れば、それは集計が必要になります。

 
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