出張中の労働時間と賃金 (2005年12月号より抜粋)  
     
 

休日にセミナーに出席させたら交通時間も含め賃金を払うべきか?

 

Q

休日に、従業員を安全管理に関するセミナーに出席させます。セミナーの時間は4時間ほどですが、会場が遠隔地で、当社から往復する場合、合計5時間ほどかかります。出張扱いで休日1日分の賃金を支払うという処理で、問題ないでしょうか。

 

 
 

A

研修時間の賃金で足りる

研修・講習等は通常業務と性質が異なりますが、業務命令として出席を強制した場合、労働時間に該当します。セミナーの費用、交通費等を会社が負担するのは当然のことですが、そのほか、休日に出席させた場合には、所定外勤務として賃金を追加で支払う義務が生じます。

お尋ねのケースでは、セミナー自体は4時間ですが、会場への往復に5時間を要するということです。こうした勤務形態の場合、どのように賃金を計算すればよいのでしょうか。

多くの会社では、就業規則中に、「出張の場合には、所定内労働時間働いたとみなす」という規定を置いています。出張中は、勤務時間が途切れ途切れになりがちで、かつその時間把握も困難です。ですから、一律、所定内労働時間働いたとみなし、賃金管理の簡便化を図る趣旨です。

これは、労基法第38条の2に根拠があります。同条では、「事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」と定めています。ですから、一般に出張に出ば、いつでも「みなし労働時間」処理が可能なわけではありません。あくまで、「労働時間を算定し難い」という条件を満たす必要があります。

遠隔地で開催されたセミナーへの出席を命じた場合、出張扱いで1日分の賃金を払えばよいかというと、単純にそういう結論にはなりません。セミナーは、予定されたスケジュールに従って実施されます。何時に始まって、何時に終了したか、時間把握が可能です。

事業主は、出張中の賃金計算をする際、実労働時間主義を採るか、みなし労働時間制を採るか、任意に選択できるわけではありません。実労働時間を把握できるときは、みなし制を適用することはできないのです。

次に検討が必要なのは、セミナーに要した4時間分の賃金で十分か、あるいは移動時間も含めた9時間分の賃金が必要か、という問題です。移動時間は、「物品の監視など特段の指示がない限り」(昭23・3・17基発第461号)、労働時間に含まれません。ですから、法的にはセミナーに出席した4時間分について、割増も含めた賃金を支払えばそれで足ります。

しかし、従業員側としては、往復時間も含め丸1日を費やしたのに、4時間分の賃金では割に合わないと感じるでしょう。

不公平感を和らげるため、「みなし時間」制によることなく、8時間分の賃金を支払うのは、法を上回る処理ですから、もちろん問題ありません。そうした処理をしない場合にも、休日手当など別名目の手当を支払えば、従業員の不満対策としてはよいでしょう。

 
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