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判例 従業員が集団で他社へ移籍 (2006年7月号より抜粋) | |
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被告の債務不履行を認め 損害賠償は退ける 従業員が集団で他社に移籍したりすると、会社は大打撃を受けます。「サラリーマン倫理にそむく」行為ですから、裁判に訴えてでも、徹底的に責任を追及しなければ気がすみません。本件では、営業収益の落ち込み分について損害賠償を請求。裁判所は、集団移籍と損失の相当因果関係を立証できないとして、会社側の主張を退けています。 A社事件 東京地方裁判所(平17・9・27判決) 自社の戦力である社員が大量に退職するだけでも痛手なのに、それが同業他社に移籍したとなれば、存亡の危機といっても過言ではありません。営業フィールドでいえば、虎の子の「顧客データ」を手土産に、他社で高待遇を受けるという悪質なケースもあります。 泥縄では大損を被るおそれもあるので、会社としては事前に防止策を講じておかなければなりません。本件で被害を訴えたのは先物取引会社で、営業社員の戦力流出には、常日頃から危機感を持っていました。 そこで、就業規則上に、「秘密保持義務は退職後6ヵ月間存続する」、「退職後6ヵ月間は会社と同種、類似の営業を営み競業行為を行ってはならない」旨の規定を置いていました。 事件の根っこは、従業員たちの会社に対する不満です。被告となった社員(移籍社員)の主張によれば、会社は「他社の従業員を名乗って顧客に電話をかけ、自社の信用を高める丁根回し」と呼ばれる営業方法を指示していた」「役員による『班長手当』と称する報酬搾取が行われていた」といいます。 これに対し、移籍について主導的役割を担った社員たちは、(会社主張によれば)「履歴書をもってこい」「お盆明けには出るぞ」などといって、多数の部下社員に対し強引な勧誘を行いました。 裁判所は、秘密保持義務について「禁止する行為が明確に列挙されている」し、期間も6ヵ月と限られていることから、公序良俗に反しないと判断しました。競業避止義務についても、「従業員の給与水準は高額で、必ずしも特段の代償措置が講じられなくても」違法といえないと断じています。結果的に、被告の債務不履行責任を認めました。 しかし、損害賠償の請求は退けました。会社は、「22名が退職したことにより、顧客の新規開拓を行う能力が低下した。また、顧客管理の担当者の退職により、顧客が逃げるなどの事態を招き、営業部門の手数料収入の減少を招いた」と主張していました。 しかし、判決文では、「営業を担当する人員数の増減と手数料収入の増減とが相関しているとはいいがたい事情が存在することは明らかである。損害の発生と移籍の間に、相当因果関係があるとはいえない」と述べました。実損額を確定するのは、難しいということです。 秘密保持義務、競業避止義務を明確かつ具体的に定めることは、いうまでもなく大切です。しかし、それですべての損失を回避できるわけではなく、一定の限界がある点を承知しておくべきです。
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