判例 労働契約に職種限定の特約はなかった (2006年9月号より抜粋)  
   

 

 
 

電話交換に専門性不要 配置転換は合理的決断

雇入れ時に職種を限定しているとさは、会社は勝手に仕事内容を変更できません。しかし、現実には、職種限定の約束があるのか否か、あいまいなケースも少なくありません。本件では、30年間、電話交換に従事していた事実があっても、「そもそも専門性が低くて、職種を特定する意味がない」という理由で、会社側の配転命令は有効と認められました。

大阪地方裁判所(平17・9・1判決)


職種転換の可否は、基本的には転勤と同じ基準に基づいて判断します。つまり、契約時に職種・勤務地を限定していれば、会社側は一方的に転換を命じることができません。

裁判では、テレビ・ラジオのアナウンサーやタクシー運転手等に対する転勤命令の有効性が争われています。医者や会計士など高度な資格の保持者については、わざわざ職種限定の有無を確認するまでもありません。そこそこ専門的ではあるけれど、必要人材の充足はそれほど困難でないという職種で、争いが発生しやすいといえるでしょう。

本件は、電話交換手の職種転換をめぐる珍しいケースです。電話交換業務には、以前は専門の資格が存在しました。訴えを起こした従業員も、この資格を取得したうえで、大学法人に採用されたという経緯があります。しかし、その後、技術革新により、技術・知識的なハードルは大幅に低下し、昭和59年には資格そのものが廃止されました。

本人としては、専門職というプライドもあったのでしょうが、その後、採用される人たちは資格もなく、特殊な訓練も受けていない人たちです。大学法人の経営が苦しくなるなかで、電話交換業務についてはすべてアウトソーシング化し、経費節減を図らざるを得ない状況に立ち至りました。

本人は、物流センターに配置転換された後、立ち仕事により「モートン病」を発症し、足の痛みを訴えるようになりました。そうしたなかで、配転無効の争いが起こされたのですが、裁判所は「(現在では、)電話交換業務は比較的画一的・単純な業務であることに照らせば、高度の専門一性を有する業務であるということはできない。給与体系についても、一般事務職並みに変更されている」と述べ、「電話交換手以外の職種に配転しない旨の合意があったと認めることはできない」と判断しました。

配転命令自体についても、「業務内容は変更されたものの、勤務時間、給与等の労働条件は変更されなかったのであり、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるなど、権利濫用となるような特段の事情があるということはできない」ので、有効と認めています。

他にも印刷関連のようにコンピュータの導入で、一気に専門性が薄れた職種もあります。過去の経緯は一応尊重するにしても、現時点で職種を限定する意味がなくなった場合には、会社側が広く配転命令を発する権限を有すると解してよいでしょう。




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