判例 うつ病で普通解雇もやむなし (2008年5月号より抜粋)  
   

 

 
 

普通解雇もやむなし うつの業務起因性を否定

身体・精神の不調を訴え、細切れに欠勤を繰り返す社員は、会社にとって頭痛のタネです。最終的には、普通解雇を決断せざるを得ませんが、社員が徹底抗戦を選択すれば、タダではすみません。本事件では、社員は「うつ病は正当な仕事を与えられなかったため」等と主張しましたが、裁判所は会社の責任を認めず、普通解雇を正当と判断しました。

Sケーブルシステム事件 東京地方裁判所(平19.6.8判決)


一口に「不規則出勤」といっても、大きく2とおりに分けられます。第1は、細かな私傷病が連続して発生し、在籍期間のうち少なからぬ期間が私傷病休職期間で占められるというケースです。この場合、出勤している期間については、通常レベルの労務が提供されるのが一般的です。

第2は、精神疾患等により、出勤と欠勤を繰り返すというパターンです。この場合、出勤しても、ほとんど契約の本旨に従った労務が提供されないのが普通です。

本事件は、この両方のパターンが現れた「不規則出勤の見本市」のような事例です。社員は、入社後、まもなく持病の腰痛を訴え始め、腰の手術を受けました。約250日休職後、3日間出勤し、その後また473日休職しました。復職してからも、毎年、年休を消化しきってから20〜50日間にわたって欠勤するという状況を続けました。平成18年に入ってからは抑うつ状態という診断書に基づき、さらに欠勤が増えるという状態に陥っていました。

復職後の勤務成績・態度もお世辞にも優良とはいえず、会社は本来業務から外し、複数回、配置転換する等の措置を講じていました。退職勧奨を行っても本人が応じないため、ついに、

  1. 出勤常ならず勤務に不適

  2. 心身虚弱で勤務に耐えない

という理由で普通解雇に処しました。しかし、社員も大人しく引き下がりません。裁判に訴えましたが、争点は2つあります。まず、休職手続を採り、医者の診断書も提出したうえで欠勤した場合、それを「勤務不良と評価するのは不当か否か」、という問題です。次に、うつ病の発生は「本人にとって屈辱的な配転を繰り返した会社に責任があるか否か」という問題です。

論点1について、裁判所は「休職期間及び有給休暇を除いても、相当程度の欠勤が存在し、出勤常ならずの条件に該当するのは明らか」と述べました。論点2に関しては、「本人が繰り返し業務上の指示に誠実に対応すべきことや協調性の心構えを指摘されて、誓約書を差し入れているほか、同様の指摘を上司からされていることを併せ考慮すると、本人が抑うつ状態になったことの原因を専ら会社の人間対応に帰することは適当とは思われない」と判示しています。

結論としては、会社側主張がほぼ全面的に採用され、普通解雇に違法性はないと判断されました。本件は会社勝訴ですが、それでも勤務不良で普通解雇するのは勇気がいります。不良社員がいたら、まずこの判例を示し、本人の反省を促すのが先決でしょう。

精神疾患からの職場復帰システムの構築、あるいは復帰不能の場合の企業サイドにとって安全な労働契約の解消のためには、就業規則の見直しが必要です。

既に紛争に発展している場合は、個別労働紛争相談所へ。裁判外紛争解決処理で円満解決を図ります。東京都の企業様限定サービスです。

 




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