判例 両親の介護は配転拒否の理由にならず (2003年10月号より抜粋)  
   

 

 
 

配転命令に妥当性ある。不利益性は大きくない。

企業活動の広域化にあわせ、配転命令は判例でも広い範囲で許容される傾向にあります。本事件は、身体障害を持つ両親の介護を理由に従業員が転勤を拒否したケースですが、裁判所は「切迫した危険性があるとはいえない」として会社側の主張を支持しました。感情に流されず、冷静な判断が必要という好例です。

札幌地方裁判所(平15・2・4決定)


従業員が切々と訴えた家庭の事情を、まずご説明しましょう。父親は目が不自由で寝たきり状態、身体障害者等級1級という認定を受けています。母親も、身体障害者等級4級という状態です。従業員は、土日のほかに週1、2回は両親宅に赴いて、介護に従事していたといいます。

そんなところへ、札幌在住の従業員に東京への配転命令が下ったのです。これだけ聞くと、「会社も酷いことをするもんだ」と思ってしまいます。従業員は、命令に異議をとどめつつ、東京に赴任し、そこで裁判所に対し、命令に従う義務のないことを仮に定める仮処分命令を求めました。

しかし、あにはからんや、裁判所は申し立てを却下する決定を下しました。判断枠組みは、従来の判例を踏襲するものです。

決定文では、「もとより、配転命令は、使用者側の事情だけでなく、労働者側の事情にも配慮して行われるべきであり、そうした観点からみると、本件配転命令が、父親の介護の必要性、従業員のこれまでの勤務地、年齢、転居による不利益などをも考慮して行われたものであるか否かは十分に検討されなければならない」と一般論を述べたうえで、著しい不利益があるとはいえないという理由で、配転は無効という従業員側の主張を斥けています。

有名なTペイント事件(最高裁、昭61・7・14)をはじめ、判例はそう簡単には不利益を認めない傾向があります。本件でも、

(1)実態として父親の世話は母親がやっていた、

(2)週1回ホームヘルパーが通ってきていた、

(3)従業員の妻や妹も介護に従事していた、

(4)会社には1年の介護休暇制度等があった

などを理由として、「急迫した危険が生じる」とは思えないと判断しています。実は、この配転、親の介護以外にも、問題がありました。会社は、50歳以上の社員に対し、大幅な配転、労働条件の変更等の措置を講じていました。訴えを起こした従業員は、そもそも、そうした会社の強硬な態度に、不満を抱いていた節があります。そこで、親の介護を持ち出して、配転は不当という論陣を張ったようです。

両親がともに身体障害者という事情だけを聞くと、感情に流されて、転勤命令に二の足を踏みそうですが、冷静に状況を考えれば、結論は異なってきます。

ただし、育児・介護休業法第26条に、「事業主は、就業の場所の変更により家族の介護が困難となる場合には、配慮しなければならない」という規定がある点には、注意が必要です。

 

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