東京労務管理総合研究所

  就業規則相談所

就業規則と労使トラブル事例

就業規則が適切に定められていれば、 トラブルは未然に防止できました

 

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目次

  1. 出勤しない従業員を「みなし退職」扱いに
  2. 元従業員が会社の情報を漏洩、営業活動
  3. 労務相談と判例より

 


 

事例1 出勤しない従業員を「みなし退職」扱いに

 

紛争のあらまし

 

勤務態度が不良な従業員を注意したところ、まったく出勤しなくなりました。退職とみなして事務処理をすると、音信不通だった従業員から突然「解雇されたので解雇予告手当を払え」と手紙が届き、労働基準監督署に訴えられました。

 

紛争の背景

 

K社(従業員数35名)はビルメンテナンス業であり、現社長が創業者です。社長の"営業力"はすさまじいものがあり、ある意味でその甲斐あって今日のK社が存在し続けているといっても過言ではありません。いわゆる、超ワンマン状態の会社でした。採用時には、労働条件通知書も手渡し、就業規則も整備されていましたが、実際の運用にあたっては「俺が就業規則だ」といわんばかりのワンマン振りが徹底していたのです。

 

そんな中、Yが入社してきました。社長によれば、「面接のときは受け答えもしっかりしていた」とのことでした。ところが、Yはものの1週間も経たないうちに、「遅刻の常習犯」になり、さらに具合の悪いことには、盛んに同僚の陰口を吹聴してまわるため、瞬く間に職場の雰囲気が険悪になってきたのです。チームワークで仕事をするK社にとっては、この2つとも大変都合の悪いことでした。そこで、報告を受けた社長は早速本人に、「遅刻をしないこと」「職場の雰囲気を悪くするような同僚の悪口・陰口を慎むように」と注意を与えました。たぶん、その口調はかなり厳しいものだったと思われます。

 

しかし、Yはその態度を改めるどころか、翌日から「無断欠勤」に及んだのです。何度も呼び出しをかけたのですが、なしのつぶて。そのうちに1週間、2週間が過ぎました。相変わらず、会社からの呼び出しにも一切の応答もなかったので、K社は「退職したもの」とみなし、退職の処理をしました。ところが、K社の退職処理終了の通知が届いた数日後、Yから「解雇されたので解雇予告手当を払え」との手紙が届きました。ビックリした社長は本人を呼び出し話し合いをしようとしましたが、Yはこれに応じることなく、労働基準監督署に訴えに行ったのです。

 

処理のポイント

 

  1. Yの態度は常識に反しているが、K社側の早すぎる対応に間題があったこと。
  2. 「本人の退職の意思表示」もなく、「就業規則に無断欠勤が例えば30日以上続けば自動退職」とみなす旨の規定もないこと。
  3. 採用時に見抜けなかったこと

 

 

手順と手続き

 

Yからの退職の意思表示はまったくなく、K社では労働基準法第20条(解雇予告の除外)の検討もしましたが、対応が不十分でした。そのため、労働基準監督署の事情聴取に応じ、ありのままの事実を申し述べ、その指導を受け入れることにしました。結局、Yを解雇扱いとして、解雇予告手当を支払って解決できましたが、この事例は、K社にとって多くの教訓を残しました。

 

  1. 退職とみなすに至った経緯
    Yへの"呼び出し"は単に電話で行われたものに過ぎず、一度も自宅訪問や文書によるやりとりも行われていません。結局本人とは一度も連絡がとれず仕舞いに終わっており、そのまま「退職したもの」とみなし退職の手続きをとってしまいました。2週間での判断は、あまりに早すぎるといっていいでしょう。少なくとも、現場の責任者が本人宅へ出向いて出勤を促す。それでも応じなければ、文書で「今後2週間経過しても無断欠勤が続き、さらにいかなる連絡もない場合は、退職されたものとして処理する。早急に連絡されたい」などと催告するべきでした。
  2. 採用の仕方
    K社の"採用"は、社長の単独・独断で決定されていたこと。今回のケースでも、社長の「受け答えはハッキリしていた」という理由で、入社が決定されています。K社のような"チームプレー"が求められる業種では、その従業員を使用する部門責任者の採用基準、適性判断等の意見は重要です。少なくとも、採用にあたっては、部門責任者の意見を聴取すべきでした。K社はこの点を深く反省し、以後採用にあたっては必ず部門責任者の面接同席、意見聴取がルールとして確立されました。
  3. 就業規則の定め
    K社の就業規則で、「無断欠勤が30日以上に及んだときは自動的に退職したものとみなす」「出勤常ならず、再度の警告にもかかわらず、その状態が変わらないときには、懲戒解雇とする」旨の定めがあれば、紛争にはなりませんでした。退職、または懲戒解雇として処理できたはずです。今後早急に「就業規則」の再検討を行うことが確認されました。

 

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参考判例

 

  • 昭30.9.22東京地裁判決(電気学園事件)
  • 昭49.8.9東京地裁判決(三菱電機事件)
  • 平11.7.15最高裁一小判決(兵庫土木事務所事件)
  • 平12.7.28東京地裁判決(東京海上火災保険事件)

 

参考法令

 

  • 労働基準法第20条(解雇予告除外認定)
  • 労働基準法第89条(就業規則)

 

参考通達

 

  • 昭23.11.11基発1637号
  • 昭31.3.1基発111号(労働者の責めに帰すべき事由)

 

著作権

 

この記事は、SRアップ21編『個別労使トラブルの対処・予防の話と実務』93~96ページより、引用許可を取って掲載しております

 


 

事例2 元従業員が会社の情報を漏洩、営業活動

 

紛争のあらまし

 

競合会社のダイレクトメールが顧客に送付されていることがわかりました。法人顧客などには、業務の担当者の名前まで入っていました。退職した従業員が顧客リストを持ち出したようです。違法な営業活動を中止させ、同様な問題が起こらないように対処しました。

 

紛争の背景

 

個人や企業で所有している賃貸不動産物件を賃借人に賃貸しすることにより不動産収入を得るには、賃貸借契約の締結やその後も様々な管理にかかわる業務が必要となります。不動産管理会社であるP社は、従業員20名ほどの規模で、賃貸人に代わって、この管理業務を行うことを事業の一部として行っています。

 

P社では、大家さんとの人間関係を第一にして、良好な関係を保つことに努力してきました。また各種データをコンピュータで管理し、賃借人ごとの契約更改もスムーズに行ってきました。

 

そんなP社で、1、2ヵ月前から、P社の顧客あてに同業他社からダイレクトメールが送られているという事実が発覚しました。顧客が教えてくれたのです。

 

前述のとおりP社では、顧客との人間関係を第一に考えて対応してきたため、こんなことで契約が切り替わるとは思っていませんでした。一方、顧客にそのダイレクトメールを見せてもらうと、宛先にP社担当者名まで入っていました。これはP社のデータを見ない限り、一般的には知ることのできない情報です。

 

数力月前に、この部門の課長であるAが退職しています。Aはこの管理業務の責任者として、顧客を担当するだけでなく、部下の管理、指導を行っていました。Aはコンピュータも得意で、情報管理のシステムの導入当初から自由に使いこなしていました。

 

P社では、すぐにAに連絡をとり、転職先を聞き出すと、やはりダイレクトメールを出していた同業他社でした。Aに対してP社の情報を持ち出し、これをもとにダイレクトメールを出していたことを問い詰めましたが、なかなか認めません。また今後P社の顧客に接触するのを止めさせようとしましたが「もともと知っていた企業に営業活動をして何が悪い」と開き直られてしまいました。

 

社長は、「うちで課長までやっていた従業員が、競合他社に転職すること自体が許されるのか」と憤りは収まりません。

 

P社では、このようなダイレクトメール送付などの違法な営業活動を速やかに中止させるとともに、今後このようなことが起きないような仕組み作りをしたいと考えています。

 

処理のポイント

 

  1. 過去の事例を判例等で研究すること。
  2. 機密漏洩、在職中や退職後の競業に対して就業規則や誓約書など適切な方法をとれば防ぐことができること。

 

処理・予防手順と手続き

 

P社の就業規則には、次のような定めがあります。

 

(服務規則)
第11条 従業員は、次の事項を守らなければならない。
(7) 在職中または退職後も会社および顧客の機密を漏らさないこと。
(8) 許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。

(懲戒事由)
第47条 従業員が、次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、情状により通常の解雇又は減給もしくは出勤停止とすることがある。
(3) 会社および顧客の機密情報を外部に漏らしたとき、または漏らそうとしたとき

(損害賠償)
第50条 従業員および元従業員が故意又は重大な過失によって会社に損害を与えたときは、その損害の全部又は一部を賠償させることがある。ただし、これによって懲戒処分を免れるものではない。

 

しかし、就業規則の中には「退職後に一定期間競業会社に就職しないこと」などの定めはありません。したがってAがB社に就職したことを責める根拠が見つかりません。

 

P社としては、企業の機密が外部に漏れることにより大きな損害を被ることになります。さらにP社の機密だけでなく、取引中の顧客情報も把握して管理することが多々あります。これらの機密が漏洩されると社会的な信用も失うことになります。

 

そのためには、就業規則にしっかり定めて防止しなければなりません。また、退職した従業員が同業他社に転職して、もとの会社の機密を利用して営業を行われると不当に利益が損なわれることになりますから、これも防止したいと考えるのは当然のことでしょう。

 

P社では、いろいろ調べた結果、現状で対応できることは次の2点であると判断しました。

  1. P社の営業情報を不正に使用することの差止請求
  2. P社が被った損害に対する損害賠償請求

 

P社には顧問弁護士はいませんでした。相談や実際の交渉なども依頼しようと数人の弁護士事務所と連絡をとりましたが、社長が想定していた報酬とは合わず、社内で対応することに決めました。社長や従業員がいろいろな資料を研究した結果、次のようなことがわかりました。

 

  1. Aが行っていることはP社の利益を不当に脅かすものであること。
  2. 実際に顧客を奪われた場合は、Aに対して損害賠償を請求することも可能であること。
  3. Aのようなケースは、過去の判例では会社が勝訴しているものが多くあること。

 

弁護士に頼み、すっきりと解決したいところでしたが、前述の事情で依頼できない以上、裁判も起こせません。Aに対しては、その後再三止めるよう要求しても態度を硬化させるばかりです。

 

AはP社に在職中、部下の指導や自分自身の業務でも、新しい情報や正しい知識を進んで受け入れてきました。そこで社長は、今回のことで研究した文献で会社側が勝った判例や解説文などのコピーを用意して、Aに会うこととしました。

 

社長が資料を見せながら、Aがやっていることの不当性を訴えている間、Aはいままでと同じ態度でしたが、「直接話をするのはこれが最後だ。今後も悪質な営業を継続するなら弁護士を通じてしかるべき手を打つ」と言い渡したところ、黙って用意したコピーを持ち帰りました。

 

社長はこれでAが改めなければ、今度は本気で弁護士に依頼して訴えるつもりになっていました。きっとAは、持ち帰った資料をしっかり読んだのでしょう、このまま継続すると本当に訴えられると思ったのか、その後Aの勤務する会社からのダイレクトメールは届かなくなりました。

 

1ヵ月後に、顧客のうち1社だけ契約の更新ができなかったところがありましたが、もともとAの担当顧客。社長は「授業料だ」と気にしませんでした。そして今後の再発防止のために次のような点を検討することとしました。

 

ただし、就業規則に規定したり、誓約書や本人の同意があれば、どんな内容でも有効ということではありません。憲法の「職業選択の自由」との関係や、合理的理由や禁止の範囲などに一定の制限があることも、慎重に研究しておく必要もあるでしょう。

 

  1. 顧客管理データに対し、パスワードなどを設定し、役職などによりアクセスできる範囲を制限する。
  2. 就業規則に退職後の競業に関して期間を定めて制限する条項を追加する。
  3. 入社時および退職時に機密漏洩、競業を行わない旨の誓約書をとりつける。

 

参考判例

 

  • 平2.1.17東京地裁(東京学習協力会事件)
  • 平3.10.15大阪地裁(新大阪貿易事件)
  • 平5.1.28(チェスコム秘書センター事件)
  • 平7.10.16東京地裁(東京リーガルルマインド事件)
  • 平9.1.27浦和地裁(東京貨物社事件)

 

参考法令

 

  • 労働基準法第20条(解雇予告除外認定)
  • 労働基準法第89条(就業規則)

 

参考通達

 

  • 昭23.11.11基発1637号
  • 昭31.3.1基発111号(労働者の責めに帰すべき事由)

 

著作権

 

この記事は、SRアップ21編『個別労使トラブルの対処・予防の話と実務』220~224ページより、引用許可を取って掲載しております。

 

著作紹介


人事・労務関係のトラブル事例43ケースを対処方法、予防の観点からわかりやすく解説しています。読んでみてたいへん興味深かったです。本の画像人事・労務担当の方だけでなく、これから社会保険労務士になろうという方にもオススメいたします。

(現在絶版 2005年9月9日加筆)

 

禁無断転載

 

以上の記事は、SRアップ21編『個別労使トラブルの対処・予防の話と実務』より引用許可を取って掲載しております。無断転載はお断りいたします。

 


 

労務相談と判例より

 

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